資料番号001

表  題海軍「96式空1号無線電話機」評価試験・受信機   寄稿: 山田忠之殿

追加資料
1. 試験対象機材
 受話機(機番1609、製造-昭和18年7月、沖電気株式会社)

2. 構成と動作
 高周波増幅UZ-6C6,周変・局発Ut-6A7,中間周波増幅UZ-6C6、再生検波UY-76A,低周波増幅UY-76Aで構成されたシングル・スーパーヘテロダイン方式の航空機搭載用 電信(A1)・電話(A3)小型軽量短波受信機。
 受信周波数範囲は4-6MHz、但し、水晶制御による1周波プリセット方式。
 中間周波中心周波数は450KHz。
検波は再生検波方式で、電信の復調は検波段を弱発振状態とし、音調調整器により発振周波数を変化して唸音を得ている。(電信・電話共に、再生強度は各々半固定コンデンサーにより予め設定されており手動操作による可変調整は出来ない)
 AGC機能は無く、音量調整は低周波段での増・減2段切換のみであり、減で出力レベルが約-10db(1/3減)となる。
定格電源電圧、低圧12VDC、高圧150VDC(回転型変圧器)。

3. 総合利得とS/N比
 
受信周波数と電波形式
電信=無変調連続波  電話=1KHz、50%振幅変調波
空中線入力(μV)
受聴器(音響)出力 S+N/N
受信周波数 局発周波数 同調目盛 音量調整  電波形式  1Vrms 3Vrms 10db
5868KHz 6315KHz 12 3.5 電 話 1.3μV 4.1μV 0.16μV
3.5 電 信 0.9μV 2.7μV 0.87μV
5037KHz 5485KHz 38 3.5 電 話 1.5μV 4.5μV 0.18μV
3.5 電 信 1.0μV 3.2μV 0.80μV
4122KHz 4570KHz 80 3.5電 話1.9μV5.7μV0.23μV
3.5 電 信1.4μV4.5μV1.00μV

高周波入力-音声出力特性(電話・周波数5036.9KHz、1KHz50%変調。音響帯域-6db、400Hz〜6KHz)
空中線入力3μV5μV10μV15μV30μV50μV70μV100μV
受聴器出力(Vrms)1.2V3.2V4.9V7.0V11.0V13.5V18.2V21.9V

備考
@ 電信では総合利得は向上するがS+N/N比は再生強度増加による再生発振雑音の増大により悪化する。
A 再生検波方式であるので総合利得、S+N/N比、選択度等は再生強度(半固定コンデンサーで設定)により著しく変化するが再調整は一切行わず、製造当初に設定された儘の状態で測定した。
B 中間周波の中心周波数は450KHzであるが初段中間周波変成器の同調周波数が経年変化により3-4KHz高目に偏移していることを考慮して、検波段の同調周波数を音調調整器により453KHz(音調調整器目盛3.5)に設定して全ての測定を行った。
 此の状態に於ける中間周波段の周波数特性を写真1に示す。
 電話での帯域幅は凡そ-6dbで10KHz、-20dbで30KHz、電信での帯域幅は-6dbで2KHz、-20dbで13KHzである。
C 電信での測定は唸音が1KHzとなるように音調調整器を若干調整して行った。
D 受聴器栓(音響出力)にはテー式1号受聴器(4KΩ)を負荷として常時接続し、音量調整は(増)に設定して測定した。
E 局発水晶片は海軍型と陸軍航空機用を使用した。
F 電源は、低圧12VDC(700mA)定電圧電源、高圧150VDC(23mA)定電圧電源を使用した。
4. 音調調整器・目盛対再生検波同調(発振)周波数特性

 
音調目盛 0  2  4  5  6  8  10 
再生周波数 464KHz  469KHz  452KHz  450KHz  448KHz  443KHz  439KHz 

備考
G 音調調整器の可変周波数範囲が中心周波数450KHzに対して±10KHz以上と広いことから推して、音調調整器は受信周波数微同調機能を兼備したもの(所謂IFシフト機能)と思われる(主同調は水晶制御により固定されている)。

5. 測定法と器材
 空中線入力信号にはHP製8648A型SG(出力インピーダンス50Ω)を、受聴器(音響)出力の計測には目黒電波MV-17A型レベルメーターを使用した。
 S+N/N 10dbは空中線入力無信号時の音響出力レベルに対して、同レベルが10db増(約3倍)を示す時の入力信号レベル値。
 中間周波特性は周変管(6A7)のコントロールグリッドに0.01μFと40dbATT(HP-355D)を介してスペアナ(HP-3585A)のトラッキング信号( 100mVrms )を入力し、検波管陽極回路に10MΩ、10PFのプローブを近接して得た出力をスペアナの高インピーダンス端子に入力して測定した(写真2参照)。

6. 所見
 昭和18年製造、調整の儘の状態にあり、中間周波数、再生強度設定等、性能に大きく関わる部位に径年70年による若干の調整ズレが散見された。再調整による性能向上が見込まれたが敢えて一切行わずに評価試験を実施したが、音響出力として十分な3Vrmsを得るに要する入力信号レベルは3〜5μV、S+N比は0.2〜1μVであった。 これ等の結果からして本器材は通信型短波受信機として十分な性能を備えていたと思われる。
 機能面では、戦闘機用器材であることから極めて小型軽量であり、安定動作、信頼性の確保、外形等に加えて、主同調を水晶制御により固定、安定化して微同調のみとし、音量は2段切換えにする等、簡単、確実で合理的な操作性等々、様々な工夫が窺える。

写真-1、中間周波段周波数特性、電信(鋭波)、電話(鈍波)重ね描き(縦軸10db/div, 横軸20KHz/div、中心周波数450KHz)。



写真-2、受話器評価試験のためのテストベンチ。。




資料番号002

表  題海軍「96式空1号無線電話機」評価試験・送信機   寄稿: 山田忠之殿

追加資料
1. 試験対象機材
 送話機(機番1162製造-昭和18年2月、沖電気株式会社)

2. 構成と動作
 水晶制御発振兼高周波電力増幅UY-503、振幅変調音声電力増幅UY-503、2本の真空管で構成された航空機搭載用、電信(A1)・電話(A3)小型短波送信機、出力約7W。
 周波数範囲は4-6MHz、但し、送信周波数は水晶制御による1周波プリセット方式。
 空中線端子は平衡出力であり、空中線との整合は空中線電流計の指示を基に空中線線輪タップ@〜H、ローデイング線輪タップ@〜F、平衡蓄電器接・断を予め調整しておくプリセット方式。
 電話での振幅変調はチョークトランスを用いたプレート変調(所謂ハイシング変調)方式。なお、電信送信時には変調管は側音発振器として動作し、略2KHzの側音を発生する。定格電源電圧は低圧12VDC、高圧500VDC(回転型変圧器)。

3. 電力計による送信出力の測定(電信)
 
送信周波数対送信出力(高圧電圧500V)
 周波数  送信出力  P+SG電流  高周波電流  空中線タップ  励振電流 
 4570KHz  7.5W  48mA  210mA  6  22mA 
 4790KHz  8.0W  50mA  220mA  6  22mA 
 5006KHz  7.5W  48mA  210mA  7  22mA 
 5995KHz  7.2W  46mA  200mA  9  20mA 

高圧電圧対送信出力(周波数4790KHz)
 高圧電圧  送信出力  P+SG電流  高周波電流  空中線タップ  励振電流 
 400V  5.2W  36mA  160mA  6  15mA 
 500V  8.0W  50mA  220mA  6  22mA 
 600V  11.0W  56mA  260mA  6  27mA 

備考
@ 変調管を抜取り、高周波電力増幅管のみの状態で測定した。
A 発振は水晶制御(水晶片は海軍型、陸軍航空機用を使用)、ローデイング線輪タップ栓は@(最小)に、平衡蓄電器は断に設定。
B 空中線負荷としては、純抵抗を用いて求めた最適負荷値が凡そ70-160Ωで有ったので、これに基づき1.5 : 1(113Ω : 50Ω)平衡/不平衡広帯域高周波インピーダンス変換器を介して高周波電力計(BIRD社43型+50Hエレメント)と50Ω、100Wダミーロード(BIRD社542R)を接続して送信電力の測定を行った。
C P+SG電流はプレートとスクーリングリッド電流の合算値。励振電流は空中線無負荷時のP+SG電流値。
D 低圧、高圧電源は共に定電圧安定化電源を使用した。

写真-1、電信送信波周波数スペクトラム。



4. 総合試験(電信・電話)
 
周波数4790KHz、高圧500VDC、低圧12VDC
 電波形式  送信出力  高圧電流  低圧電流 
 電信(OFF)  0  0  2.3A 
 電信(ON)  7.5W  72mA  2.3A 
 電話無変調  7.5W  87mA  2.3A 
 電話50%変調  平均値7.0W  80mA  2.3A 

備考
E 高周波電力増幅管と振幅変調音声電力増幅管を共に装着し、他は3-Aと同じ条件の下で測定した。
F 電話50%変調はマイク・トランスの1次側に1KHz、1Vp-p正弦波を入力(HP-3310A)したものである。変調音声帯域の-6db点は500Hz、12KHzであり、700Hz-8KHzの間は平坦な特性となっている。変調度が60-70%を越すと飽和領域での動作となり変調歪は急速に増大する。
G 送話口に海軍仕様のカーボンマイクを接続して送話し、通信型受信機(CUBIC社CDR-3150型、AM、BW10KHz)でエアーモニターした結果(距離約2m)ハム音皆無、音質は些か甲高い(マイクの特性?)が極めて明瞭な話音を得た。

写真-2、50%振幅変調送信波周波数スペクトラム。



写真-3、50%振幅変調送信波形(80VP-P、50Ω負荷)、上段は音響入力波形(1KHz、1Vp-p)。



5. 所見
 電信・電話(平均値)共に送信電力約7Wの性能を有し、周波数安定度は水晶制御方式であるので極めて高く、送信波の純度もスペクトラム測定に見られる如く極めて良好である。電話は陽極変調による振幅変調であり変調度が略0-70%の間にある通常送話時の変調歪は極めて少なく、雑音レベルも-60db以下、尖頭電力は18Wが得られおり通信型受信機によるエアーモニターの結果でも変調度の深い明朗な話音が得られた。これ等の結果から推して通達距離は空中線により制限を受けるものの、当時の戦闘機用無線機に要求されていた通達距離50Km程度の範囲に於いては明朗な電話通信が確保されていたものと思われる。
 外形寸法は受話機と同一で小型軽量である、機器調整は全てプリセット方式として予め設定し、操作は電信/電話、受信/送信の選択のみ、動作確認は空中線電流、側音による等々確実安定な動作が得られるよう工夫されている。

写真-4、送話機評価試験のためのテストベンチ、銘板左横はインピーダンス変換器。



写真-5、24V-5Wの電球を空中線負荷として点灯した状態(電信)。




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